大判例

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神戸地方裁判所 昭和63年(ワ)2240号 判決

東京都千代田区内幸町一丁目三番一号

原告

東洋製〓株式会社

右代表者代表取締役

高碕芳郎

右訴訟代理人弁護士

羽柴隆

神戸市東灘区住吉南町一丁目一二番三号

被告

大興化成株式会社

右代表者代表取締役

北風一郎

右訴訟代理人弁護士

田倉整

右輔佐人弁理士

古川和夫

主文

原告の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一  申立

一  原告

1  被告は、別紙一ないし四記載のプラスチックボトルを生産し、販売してはならない。

2  被告は、原告に対し、金九九七万二〇〇〇円およびこれに対する平成元年一月一五日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は被告の負担とする。

4  仮執行宣言

二  被告

主文同旨

第二  請求原因

一  原告の特許権

1  原告は、次の特許権(以下「本件特許権」といい、その特許発明を「本件発明」という。)を有する。

発明の名称 耐気体透過性に優れた包装用材料

出願日 昭和五一年三月三日

優先権主張 一九七五年(昭和五〇年)三月三日、英国特許出願に基づく優先権を主張

公告日 昭和五七年一〇月一六日

登録日 昭和六三年三月二四日

登録番号 特許第一四三〇五四〇号

2  本件発明の特許出願の願書に添付した明細書(以下「本件明細書」という。)の特許請求の範囲の記載は、次のとおりである。

「(A) ビニルアルコール含有量が五〇乃至七五モル%で残存ビニルエステル含有量がビニルエステル及びビニルアルコールの合計量基準で四モル%以下のエチレンビニルアルコール共重合体、又は

(B) 上記エチレンービニルアルコール共重合体と該共重合体当り一五〇重量%までの前記共重合体以外の少くとも一種の熱可塑性重合体とのブレンド物

から成る少くとも一個の層を含有し、前記エチレンービニルアルコール共重合体は、実質的に下記式

Y1=1.64X+68.0

式中、Y1は示差熱分析における主吸熱ピーク温度(℃)を表わし、Xはエチレンービニルアルコール共重合体におけるビニルアルコール含有量(モル%)を表わす、を満足する主吸熱ピークと、下記式

0.67X+66.7〓Y2〓0.40X+40.0

式中、Y2は示差熱分析における副吸熱ピーク温度(℃)を表わし、Xは前述した意味を有する、を満足する少なくとも一個の副吸熱ピークとを有し、且つ主吸熱ピーク面積当りの副吸熱ピーク面積の比(Rs)が少くとも二・五%以上の範囲にあることを特徴とする耐気体透過性の改善された包装用材料。」(R3はRsの誤記)

3  本件発明の構成要件を分説すれば、次のとおりである(以下「(一)ないし(四)」を、それぞれ「要件(一)ないし(四)」という。)。

(一)〈1〉 ビニルアルコール含有量が五〇ないし七五モル%で残存ビニルエステル含有量がビニルエステル及びビニルアルコールの合計量基準で四モル%以下のエチレンビニルアルコール共重合体、又は

〈2〉 上記エチレンービニルアルコール共重合体と該共重合体当り一五〇重量%までの前記共重合体以外の少くとも一種の熱可塑性重合体とのブレンド物

から成る少くとも一個の層を有し、

(二) 前記エチレンービニルアルコール共重合体は、実質的に

〈1〉 第一式

Y1=1.64X+68.0

を満足する主吸熱ピークと

〈2〉 第二式

0.67X+66.7〓Y2〓0.40X+40.0

を満足する少くとも一個の副吸熱ピークとを有し、

(三) 且つ主吸熱ピーク面積当りの副吸熱ピーク面積の比Rsが少くとも二・五%以上の範囲にあることを特徴とする。

(四) 耐気体透過性の改善された包装用材料

4  要件(一)ないし(四)を解釈すると、次のとおりとなる。

(一) 要件(一)は、本件発明にかかる包装用材料が〈1〉公知のエチレンービニルアルコール共重合体(以下「EVOH」という。)又は〈2〉公知のEVOHと他の熱可塑性重合体とのブレンド物からなる少くとも一層を有することを規定している。

これは要するに、(一)〈1〉のEVOHからなる層が少くとも一層含まれていれば足り、他の材料からなる層を積層した多層構成とすることを妨げない。

(二) 要件(二)〈1〉は、本件発明の包装用材料に含まれるEVOH層のもつ主吸熱ピーク(以下「主ピーク」という。)温度を表わす式であり、この条件を充したEVOHは公知である。

(三) 要件(二)〈2〉は、前記EVOHが特に一定の温度範囲にDTA曲線上副吸熱ピーク(以下「副ピーク」という。)温度を有するものでなければならないことを規定している。

(四) 要件(三)は、DTA曲線上における主ピーク面積当りの副ピーク面積の比Rsが二・五%以上でなければならないことを規定している。

このRsは、示差熱分析により得られた吸熱特性を示すカーブから主ピーク及び副ピークの各山の面積を求めて算出する。

(五) 要件(四)は、発明の対象ないし技術分野を規定している。

そして、包装用材料には、包装用フィルムや包装用ボトルが含まれる。

(六) 右の各要件を備えた本件発明にかかるEVOH層を有する包装用材料は、従来公知のEVOH層を有する包装用材料に比べて耐気体透過性(以下「GB性」という。)がほぼ二倍に達している(昭和六三年六月一六日発行の補正後の本件特許公報-以下「本件補正後公報」という。-表1ないし7)。

(七) なお、本件発明の包装用材料に用いるEVOHは、例えば従来公知のEVOHに一定の温度及び時間の範囲内で熱処理を施すことによつて得られるのである。

5  本件発明の目的及び作用効果は、次のとおりである。

(一) 各種プラスチック包装用材料は、水や空気(酸素)が通ると内容物が変質するおそれがあるので、これらを通さないようにすることが望まれる。

ところが、包装用材料として多用されているポリエチレン(以下「PE」という。)等は水分を通しにくいが、空気(酸素)を通し易い性質をもつている。

これに対して、EVOHは、水蒸気を通し易いが極めてGB性に優れており、PE等に比べると一千倍も空気(酸素)を通しにくい。

そこで、これら各樹脂の長所を活かして積層フィルムの形にし、包装用材料のGB性を向上させれば、高価なEVOHの使用を減らして安価でGB性に優れた包装用材料を得ることができる。

(二) 従来は、EVOH中、DTA曲線上に副ピークが現われるようなものはGB性が劣つており好ましくないと考えられてきた。

(三) ところが、本件発明者は、EVOHのGB性に関する研究を進めているうち、意外にも副ピークを現わすものが、主ピークのみを現わす材料よりもはるかにGB性に優れているとの知見を得て、本件発明は、この新知見に基づいて完成されたものである。

(四) ところで、各種の結晶性熱可塑性プラスチックの熱的性質を知る方法(プラスチックの転移温度測定方法)として熱分析法があり、これには狭義の示差熱分析(DTA)と示差走査熱量測定による分析(DSC)がある。

(五) 両者は、基本原理を共通にしており、得られる曲線も同様であつて、同一目的に用いることができる。

(六) 本件発明当時は、示差熱分析に用いる測定装置として理学電気株式会社製のDTA装置を使用していた。

(七) 本件明細書記載の理学電気株式会社製微量試料型示差熱分析装置(ミクロDTA標準型NO.八〇二五-以下「ミクロDTA装置」という。)は、昭和五二年に製造・販売が廃止され、現在この装置を入手することはできない。

むしろ、現在汎用されている新式のパーキン・エルマー社製DSC-二型示差熱分析装置(以下「DSC装置」という。)の方が正確なデータを得ることができる。

ミクロDTA装置とDSC装置を比べると、後者の方が分解性能が高く、感度が優れているから、どちらを使用しても、本件発明で要求されるEVOHの吸熱量の測定値には実質的に変りがない。このことは、主ピークと副ピークの面積比の測定において一層よく妥当する。

(八) ところで、要件(二)、(三)については、数値そのものを肉眼で見ることができないことは当然であり、数値は測定によつてのみ知ることができる。

数値要件を伴う発明の場合には、常に測定方法(測定装置・測定条件を含む。)を明細書中に開示しなければならないものではない。

6  要件(四)の「耐気体透過性の改善された」との記載は、要件(一)ないし(三)(構成上の特徴)がもたらす必然的な効果についての記載にすぎないから、要件(一)ないし(三)、要件(四)のうち「包装用材料」のみが本件発明の構成要件である。

(一) 本件明細書(本件補正後公報)中には、発明の一般的説明として、示差熱分析カーブにおいて特定の温度範囲に主ピークと副ピークを有するEVOH包装用材料は、副ピークのない材料に比して、優れたGB性を示す旨の説明がある。

この説明は、およそ要件(一)ないし(三)の特徴を備えているEVOH包装用材料であれば、副ピークのない材料に比してGB性が勝るという一般的な説明であつて、要件(一)ないし(三)の構成を有するEVOH中にGB性の改善されたものとそうでないものがあることを前提とし、そのうち前者について特許を請求するという趣旨ではない。

(二)(1)、本件明細書(前同)は、次の〈1〉ないし〈3〉を記載し、〈1〉は、〈2〉、〈3〉に比して例外なく優れたGB性を示すことを明らかにしている。

〈1〉 実施例 要件(一)ないし(三)の特徴を有する包装用材料(一定の温度領域に主ピークと副ピークを有し、Rsが二・五%以上であるEVOH包装用材料)

〈2〉 比較例A 要件(二)、(三)の特徴を欠く包装用材料(副ピークを有しないEVOH包装用材料)

〈3〉 比較例B 要件(一)、(二)の特徴を有するが、同(三)の特徴を有しない包装用材料(一定の温度点に主ピークと副ピークを有するけれども、Rsが二・五%に至らないEVOH包装用材料)

すなわち、本件明細書(前同)中の表1ないし7、9ないし11の酸素透過度欄には、フィルム(表1ないし7)及びボトル(表9ないし11)のいずれにおいても、〈1〉の方が〈2〉、〈3〉よりも酸素透過度が少なく、〈1〉の中でも、要件(三)のRsが大きい程、GB性に優れていることが示されている。

(2) このことからみても、本件明細書(前同)は、EVOHが要件(一)ないし(三)の構成上の特徴を充せばGB性が向上することを開示していることがわかる。

(三)(1) 特許法は、明細書中に発明の目的、構成、効果の説明を要求するとともに、特許請求の範囲の項には、発明の構成に不可欠な事項のみを記載することを要求しているが、実務では、発明目的の達成に不可欠な発明の構成の記載(発明の特徴の記載)に加えて、発明対象物の用途や効果などを便宜併記することも頻繁に行われている。

(2) 従つて、本件特許請求の範囲中に「耐気体透過性の改善された」という記載があつてもなくても、特許発明の技術的範囲は、その構成上の特徴によつて決まることに変りはなく、その効果がどの程度のものであるかは、明細書中の一般的説明や実施例によつて理解することになるのである。

7  仮に、右6の主張が認められないとすれば、本件発明の構成要件は、前記3のとおり、要件(一)ないし要件(四)である。

二  被告の実施行為

1  被告は、昭和六〇年三月頃から、別紙一左いし五記載のプラスチックボトル(以下「被告物件(イ)ないし(ホ)」という。)を業として生産し、販売している(但し、被告物件(ホ)は現在製造・販売していない。)。

2(一)  原告は、昭和六三年一一月七日、食品セルフ・イケダからイカリソース株式会社製とんかつソース三〇〇グラム入商品を購入し、その内容物を抜き取つた後のプラスチックボトルを検証物(検甲第一号証)として提出した。

(二)  原告は、同日、同店から、同社製こいくち焼そばソース五〇〇グラム入商品を購入し、その内容物を抜き取つた後のプラスチックボトルを検証物(検甲第二号証)として提出した。

(三)  原告は、同日、同店から、オリバーソース株式会社(以下「オリバーソース社」という。)製甘口お好み焼オリバーソース三〇〇グラム入商品を購入し、その内容物を抜き取つた後のプラスチックボトルを検証物(検甲第三号証)として提出した。

(四)  原告は、同年一〇月二一日、西村商事有限会社から、オリバーソース社製辛口お好み焼オリバーソース五〇〇グラム入商品を購入し、その内容物を抜き取つた後のプラスチックボトルを検証物(検甲第四号証)として提出した。

(五)  原告は、同年四月二一日、関西食品株式会社から、同社製ハグルマトマトケチャップ五〇〇グラム入商品を購入し、その内容物を抜き取つた後のプラスチックボトルを検証物(検甲第五号証)として提出した。

(六)  右(一)ないし(五)の内容物充填前の空ボトルは、被告が生産、販売した被告物件(イ)ないし(ホ)である。

3(一)  要件(一)ないし(三)所定の物性を示す包装用材料が本件発明の対象であるから、被告製品が食品充填前には右物性を示すことなく、食品充填の際の熱殺菌処理により始めて右物性を示すにいたつたときは、その製品は、本件発明の対象とならないことはいうまでもない。

(二)  しかし、原告は、右熱処理前の被告製品を入手することができなかつたので、前記2のように購入した商品からその内容物を抜き取つた後の空の容器について実験、分析、測定し、後記三2(二)のような結果を得た。

(三)  被告は、二〇〇℃をこえる温度で溶融した材料をブロー成形し、これを徐冷して食品内容物充填前のプラスチックボトルを作つている。

この熱処理状態(熱履歴)によつて、右ボトルの内外層のポリプロピレン層に挟まれたEVOH層は、主ピークに対して、要件(三)で規定された一定以上の面積比の副ピークを有するにいたる。

(四)  被告から被告製品を購入したユーザーは、このようなボトルに八〇℃程度の加熱によつて殺菌した食品を充填して冷却する方法でボトル入食品(商品)とするが、右(三)のようなボトルのEVOH層の物理的性質は、右八〇℃程度に加熱した食品の充填によつては変化することはない。

(五)  従つて、原告としては、前記2(一)ないし(五)の内容物抜取後の空ボトルについて、物理的性質を測定等することによつて侵害の成立を立証することが許される。

三  侵害

被告の実施行為は、次のとおり、本件特許権を侵害する。

1  本件発明は物の発明であり、物の特許発明の技術的範囲は、特許請求の範囲に記載された構成要件に該当する構成を有する物の一切に及ぶのであつて、その物がいかなる製法により製造されるかは問題にならず、製造された物が右構成要件を充足していれば、その物は特許発明の技術的範囲に属する。

新規の物質や物質の新規の性状による効用を見出したことによつて成立する物の発明においては、一般に明細書中で少くとも一製法を開示する必要があるとされている。しかし、この場合にも一製法を開示すれば足りるのであつて、他のあらゆる製法を開示する必要はなく、開示された製法以外の改善された製法や物性の改善された材料を用いて製造されたものも、物としての発明の構成要件を充足する以上、特許発明の技術的範囲に属する。

そして、この理は、右の技術的改善が問題となつている特許の出願後に達成されたもので、その技術が新規で別発明を構成する場合であつても妥当する。

物の発明は、特許請求の範囲に物としての構成を記載して特定するのが原則である。しかし、新規な物の構成が不明で、その示す性質でしか物を特定できない場合には、右の性質によつて特定することも許されている。

ところで、特定の構造、性状の物Aが新規で、従来品より優れた効果があるので、特許請求の範囲にはこの物Aを記載したが、その製法としては明細書中にP法しか記載しなかつたところ、同一物を得るQ法やR法も考えられ、またS法が後日開発されたというような事例においては、物Aの特許の技術的範囲は、P法で作つた物Aにのみ限定され、Q、R、S法で作つた物Aに及ばないという解釈論は一般に成り立たない。

そして、本件特許請求の範囲には製法の記載がない。

被告は、現段階では熱処理以外に本件発明の目的物を得る手段がないと主張するけれども、必ずしもそうとは限らない。

EVOHとして材料は同一であつても、積極的な加熱処理をせずに副ピークが生ずるように物性を改善した材料が考えられ、このような材料を用いても、物の発明としての本件発明の構成要件を充足する製品は、本件発明の技術的範囲に属するのである。

従つて、本件特許請求の範囲第1項記載の主ピーク及び副ピークを示すEVOH層を有する包装用材料は、要件(一)ないし(三)(あるいは要件(一)ないし(四))を充足するものとして、材料及び製法の如何を問わず、本件発明の技術的範囲に含まれる。

2  そこで、本件発明の構成と被告物件(イ)ないし(ホ)の構成とを比較する。

(一) 要件(一)〈1〉、要件(二)〈1〉、〈2〉、要件(三)、要件(四)は、それぞれ別紙一ないし五の1、2(一)、(二)、3、4の各構成に対応し、かつ後者の右各構成は、それぞれ前者の各要件を充足している。

(二) さらに、両者を詳細に比較すると次のようになる。

(1) 被告物件(イ)ないし(ホ)は、いずれも要件(一)〈1〉のビニルアルコール含有量が五〇ないし七五モル%の範囲内である約七〇モル%であり、ビニルエステル含有量が〇・一モル%未満のエチレンービニルアルコール共重合体からなる一層を有するから同要件を充足している(要件(一)〈2〉は、被告物件(イ)ないし(ホ)とは無関係である。)。

(2) 本件発明の包装用材料は、要件(一)〈1〉の材料からなる層が少くとも一層含まれていれば足り、他の材料(ポリプロピレン等)からなる層を積層した多層構成とすることを妨げないところ、被告物件(イ)ないし(ホ)は、多層構成の中間層として、要件(一)〈1〉を有しているから、同要件を充足している。

(3) ビニルアルコール含有量七〇モル%の主ピーク温度は、次式のとおり一八二・八℃となり、被告物件(イ)ないし(ホ)の約一八〇ないし一八五℃は、要件(二)〈1〉を充足している。

Y1=1.64×70+68=1828

(4) ビニルアルコール含有量七〇モル%の副ピーク温度は、次式のとおり六八ないし一一三・六℃となり、被告物件(イ)ないし(ホ)の約八〇ないし一一〇℃は、要件(二)〈2〉を充足している。

0.67×70+66.7〓Y2〓0.4×70+40

113.6〓Y268

(5) 被告物件(イ)ないし(ホ)は、いずれも要件(三)の面積比二・五%以上である七・〇%以上であり、同要件を充足している。

(6) 本件発明は、物の発明であり、その対象物は、要件(四)のとおり包装用材料であり、これには包装用ボトルも含まれるところ、被告物件(イ)ないし(ホ)は、包装用ボトルであるから、同要件を充足している。

(三) 被告物件(イ)ないし(ホ)は、本件発明の包装用材料の奏する効果、すなわち副ピークのないEVOHを用いた包装用材料に比べてRsが二・五%以上であり、かつ右公知材料に比ぺてGB性が改善されている。

3  以上のとおりであるから、被告物件(イ)ないし(ホ)は、いずれも本件発明の技術的範囲に属する。

4  従つて、被告が被告物件(イ)ないし(二)を生産し、販売する行為は、原告の本件特許権の侵害行為に該当するからこれを排除し、かつ被告は、今後もさらに被告物件(イ)ないし(二)を生産し、販売するおそれがあるから、原告は、その侵害行為を予防する必要がある。

四  原告の損害

1  被告は、別紙販売明細表記載のとおり被告物件(イ)ないし(ホ)を生産し、販売した。

2  被告の右1の生産、販売行為は、本件特許権を侵害するものであり、右侵害行為は、少くとも被告の過失によるものと法律上推定される。

3  右1の生産、販売行為により被告が得た利益(売上高から販売費を控除した残額)は、総売上高に利益率を乗じて得られる。

4  原告は、被告の右侵害行為によつて損害を被つたが、その損害額は、次のとおりとなる。

(一) 第一次的主張

特許法一〇二条一項の推定規定を適用して、原告の被つた損害の額は、右3の被告の得た利益の額と推定すべきである。

従つて、原告が被告から賠償を受けるべき損害の額は、総売上高一億二四六五万円に被告の販売利益率である八%を乗じて得られる金九九七万二〇〇〇円となる。

(二) 第二次的主張

同法一〇二条二項所定の特許権者が特許発明の実施に対し通常受けるべき金銭の額(通常の実施料相当額)は、本件については、被告物件(イ)ないし(ホ)の総売上高に四%(国有特許権実施料方式による。)を乗じて得られる金四九八万六〇〇〇円となる。

五  結論

よつて、原告は、被告に対し、本件特許権に基づき、被告物件(イ)ないし(二)の生産、販売の差止、前記不法行為に基づく損害金九九七万二〇〇〇円及びこれに対する不法行為ののちである平成元年一月一五日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

第三  請求原因に対する認否

一  原告の特許権について

1  請求原因一1ないし3の各事実は認める。

2  同一4ないし6の各事実は否認する。

3(一)  当業者が侵害成否を判断するに当つては、明細書、その他出願経過書類に記載した測定方法を用いるべきであり、これと異なる測定方法を用いるには特別の事情がなければならないのに、本件においては、このような特別の事情は存在しない。

(二)  本件明細書には、要件(二)、(三)について「示差熱分析」によると記載されているだけで、それ以上何も記載されていない。

特許請求の範囲には、発明の必須の構成(必要条件)を積極要件として記載するのが原則であるが、必要な要件であつても技術水準からみて周知慣用技術に属する事項については当業者が容易に補足できるから特に記載を要しないものとされている。

本件の「示差熱分析」についてみると、それ以上具体的にその内容を規定しなくても、「示差熱分析」と記載すれば、その分析機器及び分析方法が一義的に定まるときには、これだけ規定すれば充分である。

そして、要件(二)の主ピーク温度Y1の測定に関しては、分析機器及び分析方法について、JISK七一二一のような客観的な基準があり、それに準拠して測定を行えばよいことになる。

ところが、要件(三)のRsの測定に関しては、このような客観的な基準が存在しない。

すなわち、吸熱ピーク面積の測定方法については、JISK七一二二に規定され、「3 試験片の状態調節」の項で「試験片の状態調節は、次の二つの方法のいずれかによる。」とされ、二つの方法が定められているが、その中に試料(試験片)の乾燥条件については何も規定されていない。

従つて、単に「示差熱分析」としただけでは、試料(試験片)を特定の乾燥条件の下で状態調節を行なつてから測定を実施することを指すことにはならない。

(三)  被告製品に使用したEVOH(商品名エバールEP-F一〇一、以下「エバール」という。)は極めて吸湿性の高い樹脂であり、この吸湿した樹脂を示差熱分析したときには、副ピーク面積に水分の影響が現れる。

本件発明においてGB性改善に必要な副ピーク面積は、水分によるものでないことが必要であるが、この最も重要な水分の影響を除くための条件(試料の乾燥条件)が特許請求の範囲に記載されていないのはもちろん、本件明細書中にもその開示が全くない(ただ、原告は、本件特許権を受けるまでの経過において、乾燥手段として真空乾燥を使用し、試料の量は五ないし一〇mgとし、測定器はDTAと開示している。)。

さらに、JISにも測定条件が規定されておらず、客観的に適正と認められる測定条件は一義的に定まらないことになる。

(四)  ところが、原告は、被告製品についてデータを測定するにあたつては、前記(一)の特別の事情がないにもかかわらず、シリカゲル乾燥供試片は三ないし六mg、測定器はDSCという全く異質的な測定方法を使用している。

(五)  DTA分析したチャートの縦軸は、単位時間(〇・五秒)毎に温度(標準物質と試料との温度差)を連続的に測定し、曲線として記録したものである。

一方DSCで測定したチャートの縦軸は、単位時間毎に単位時間当りの熱量(標準物質と試料とが同じ温度に昇温されるのに要した熱量差)を連続して測定し、曲線として記録したものである。

従つて、曲線上に現れた吸熱ピーク面積が意味するものは、DTAとDSCとでは異なり、DTAの炉の構成では温度は求められるが、その温度から熱量に換算することはできず、DTAの吸熱ピーク面積は熱量を示すものではないのである。

(六)  また、DTA装置は有用な測定装置で、現在でも市販されている。

(七)  従つて、DTAとDSCは、本質的に分析方式が異なるものであるから、侵害の成否を判断するためには、本件明細書に記載されたミクロDTA装置を使用すべきである。

4  原告は、要件(一)ないし(三)の構成を充足すれば、本件発明の目的である「耐気体透過性の改善された包装用材料」が得られると推定できると主張するけれども、これは次のとおり、誤りである。

(一) 特許法三六条五項には「特許請求の範囲には、発明の詳細な説明に記載した発明の構成に欠くことのできない事項のみを記載しなければならない。」と規定されている。

すなわち、発明の作用や効果を記載してはならないとするとともに、必要要件のみで足り充分条件までの記載を義務づけていない。

ところで、化学に関する発明にあつては、実験化学といわれるように、手段と結果との因果関係が科学的に解明されていない場合が多く、発明の必須の構成が何であるかを確定できないことがある。このような場合には、発明の所期の効果を奏することを実験により確認した実施例そのものを特許請求の範囲に記載せざるを得なくなる。

しかし、これでは発明の保護に欠けるので、手段と結果との因果関係が科学的に解明されていない発明についても、多くの実施例を開示した場合に、個々の実施例のもつ特性を包括する上位概念で記載することが実務上認められている。

しかし、この各要件の数値範囲は、実施例の各要件毎の数値をまとめて拡張したものであるから、このような拡張された複数の要件の組合せは無数に存在することになる。そのすべての組合せの範囲内にあるもののうち、実験により効果が確認されているものは、その組合せ中のごく一部にすぎない。

従つて、その組合せの範囲内にあるものがすべて発明の効果を奏することになる保障はなく、却つて、発明の効果を奏しないものを当然に包含すると推定するのが自然である。

このように、特許請求の範囲に記載した発明の構成だけでは発明の所期の目的を達成するとは限らない場合に、例外的に作用又は効果を特許請求の範囲に併せて記載することにより、発明の構成の不備を補うようにしている。

(二) しかし、本件発明においては、GB性の改善のメカニズムが科学的に解明されておらず、発明の目的を達成したといえるのは、実験によつて確認できたものに限られる。

(三) そこで、本件特許請求の範囲は、以上の事情のもとに、実施例の数値を単に集合した形で、要件(二)の副ピーク温度Y2や要件(三)のRsを数値範囲で記載したものである。

被告製品に使用したエバールと組成が近似した樹脂(ビニルアルコール含有量七〇モル%)について、Y2とRsが示されている実施例は、本件明細書中、表一のB、表二のEとB、表三のGの四例が示されているだけである。そして、これらのY2は、一一〇ないし一一一℃、Rsは、五・〇ないし五・一%である。

ところが、実施例のビニルアルコール含有量七〇モル%の樹脂について、第二式からY2を求めると、六八・〇ないし一一三・六℃となる。

このように、実施例では一一〇ないし一一一℃しか開示されていないのに、第二式の範囲は大幅に拡大されている。これは、この実施例とは組成が大幅に異なるブレンドものについてのデータをそのまま使用して第二式を作成したととによるものであり、ビニルアルコール含有量七〇モル%の樹脂について、この温度範囲であれば、GB性が改善されるということは理論的にも実験的にも証明されていない。

Rsについても同様であり、実施例五・〇ないし五・一%の範囲しか示されていないのに、要件(三)では二・五%以上と大幅に拡大されている。特にこの場合の%は、単に主、副吸熱ピーク面積の比を表わすものであるから、その上限には制限がなく、それぞれ実施例の数値を拡張した範囲とした要件(二)と要件(三)とを組合せた範囲には、前記四つの実施例とかけはなれたY2とRsの値をもつものを包含することになる。

殊にRsについては、何%のものまでが実際に存在するのかさえ明らかではない。

(四) さらに、エバールが極めて吸湿性の高い樹脂であり、この吸湿した樹脂を示差熱分析したときは、水分の影響を受けて恰も要件(一)ないし(三)を充足しているかのようなデータが得られるのである。

原告の平成二年一〇月一六日付実験報告書の表一には、二五℃、六〇%RH、一週間保存フィルムのRsが七・六ないし一六・九%となり、これらのY2は、九〇ないし一〇〇℃であることが示されている。これらのデータは、要件(二)、(三)を充足している。主吸熱温度Y1は、一八一℃台であり、Y1の式で求めた温度とほぼ一致する。

従つて、これらの材料は、要件(一)ないし(三)を文字どおり充足したものとなる。

また、原告の平成五年四月二日付実験報告書の図三には、被告製品「オリバーソースお好み焼三〇〇グラム入」に用いられたエバールフィルムの熱処理を行わなかつた未乾燥状態の検体についてのサーモグラムが示され、Y1一八〇・六五℃、Y2八六・一四℃、Rs五一・七%であるとしている。

この検体のRsが大きな値を示すのは、水分の影響であることが明らかであるが、恰も要件(一)ないし(三)を充足しているかのようにみえる。

従つて、これらのデータをもつてGB性が改善されたものとすることはできない。

(五) また、特許庁の審査、審判、の過程においては実験例の追試は全く行われておらず、特許庁は、本件特許請求の範囲の要件(一)ないし(三)の構成を充足しさえすれば必然的にGB性が改善されることを確認しているわけではない。

(六) 以上のとおりであつて、本件発明においては、要件(一)ないし(三)を充足すればGB性が改善されると推定することはできない。

(七) それゆえ、原告は、要件(一)ないし(三)のほかに、「耐気体透過性の改善された包装用材料」であることを要件(四)として明記し、要件(一)ないし(三)の構成を充足したもののうち、「耐気体透過性の改善された包装用材料」だけを保護の対象として特許請求をしたものである。

二  被告の実施行為について

1  請求原因二1の事実のうち、被告が別紙一ないし五の各14、各図面のとおりの各構成を有する五種類の製品(以下「被告製品一ないし五」という。)を生産し、販売したことは認めるが、その余は否認する。

2  請求原因二2の事実は認める。

3(一)  請求原因二3の事実は否認する。

(二)  被告製品一ないし五は、その製造過程において熱処理が加わつておらず、完成後においても熱処理を施していない。

従つて、被告製品一ないし五は、本件補正後公報に示された熱処理を施される前の比較例にほかならず、被告製品一ないし五のEVOH層が本件特許請求の範囲に記載された物性(要件(二)〈2〉、(三))を呈することはない。

三  侵害について

1(一)  請求原因三1の主張は否認する。

(二)  原告は、本件発明が物の発明であるから特許請求の範囲に記載された構成を有する物すべてに権利が及びその製法の如何を問わない旨主張するけれども、これは単なる形式論である。

物の発明においては、特許請求の範囲が物の形状又は構造が構成として規定され、侵害対象物は、一般には目で見て、特許請求の範囲の構成を有するかどうかを判別することができ、そうでない場合でも、簡単な測定又は試験によりその対比が容易であつて、このような一般的な場合には、侵害対象物を直接特許請求の範囲の構成と対比するのに格別の困難はない。

(三)  本件発明の対象は、それ自体公知のEVOHに「エチレンセグメント又はエチレンリッチセグメントの結晶」を生じさせた物である。

しかし、これらの結晶自体及びそれがEVOH中にどれだけ存在するかは、目で見ても判らず、また直接結晶自体及びその量を表現する適切な手段がない。このように物自体を文章で直接規定することが困難な場合は、通常、その物の製法を特定するなどの方法により、間接的に発明の対象物を規定している。

本件発明は、結晶の融解を示すDTAによる示差熱分析曲線の副ピークの量により、発明の対象物を間接的に表現している。

ところが、本件の特許請求の範囲は、特別な物性を導入して規定したので、その要件と被告製品一ないし五の構成とを対比するにも、特別な分析手段を用いるほかはない。

そして、この分析手段は、必ずしも一律な結果を生ぜず、微妙な問題を含んでいる。

(四)  本件補正後公報には、本件発明は、成形物を所定の熱処理温度で所定の熱処理時間保持することにより、GB性の改善された包装用材料とし、他方、この方法で規定した熱処理を施さない包装用材料では副ピークは認められず、本件発明の包装用材料に比してGB性が劣つている旨の説明がなされ、また、実施例においても熱処理を施すものだけが記載され、それ以外の開示はない。

本件特許請求の範囲には、熱処理手段自体は直接規定されていないが、要件(二)の第二式で規定された示差熱分析曲線に現れるY2は、熱処理温度のみにより定まるものであり、実質的に熱処理温度を規定しているにほかならない。

また、要件(三)で規定されたRsは、熱処理時間の関数であり、熱処理時間を単にいいかえたにすぎないものである。

従つて、本件特許請求の範囲は、形式的には物の発明として記載されているが、実質的には製法(熱処理温度、熱処理時間)を規定していることになる。

以上のとおり、本件特許請求の範囲は、熱処理温度及び熱処理時間を、これらと相関関係にあるY2とRsで置き換えて記載したにすぎず、実質的には熱処理条件を規定しているものである。

(五)  そこで、本件補正後公報をみると、前記熱処理工程の数式として、

0.67X+66.7〓Y3〓0.40X+30.0

t〓0.47X-20

があげられており、「Y3は熱処理温度、Xはエチレン・ビニルアルコール共重合体のビニルアルコール含有量(モル%)を表わす」との説明がある。

そして、エバールのビニルアルコール含有量(モル%)は、エチレン含有量が三二モル%とされているので不純物を考慮して六八モル%以下となる。

この数字を前記数式に代入すると、

112.26℃〓Y3〓57.2℃

t〓11.96分

という数字がでてくる。

すなわち、熱処理工程は、少くとも温度が五七・二℃以上、時間が一一・九六分以上を必要とすることとなる。

(六)  このように、本件発明が物の発明であつても実際にその物を生産するには、客観的にみて熱処理を施す以外に方法はない。

(七)  被告は、クラレ株式会社からエバールのペレットを仕入れ、これを押出しブロー成形機に投入して押出し、ブロー成形の工程を経て、食品用容器を製造し、これを食品会社へ販売している。

エバールは、公知の商品であり、押出しブロー成形機も公知であり、ペレットの溶融温度、その他の加工条件も公知であつて、要するに、被告製品一ないし五は、公知の材料を用い、公知の加工技術を用いて得られるものであるから、本件特許権を侵害するものではない。

(八)  被告製品一ないし五は、多層押出ブロー成形機にエバールを投入し、樹脂が溶けた状態から製品になるまでの時間が二〇ないし二二秒の短時間にすぎず、そのときの製品胴部の表面温度は四〇℃以下である。

(九)  結局、本件特許請求の範囲は、実質的にみると、本件包装用材料がGB性の優れた物性を具備するものとなるための製法を規定しているにほかならないところ、被告製品一ないし五は、その加工工程において、本件補正後公報に記載されたような熱処理を施されていないし、また被告は、そのような熱処理設備を有していない。

(一〇)  本件発明は、物の発明であり、単純化していえば、対象物件を示差熱分析をした場合に、主ピークのほかに副ピークが現われるものを規定している。

しかし、被告製品一ないし五には副ピークが現れるものはない。

(一一)  被告は、通産省、厚生省指定の検査機関である財団法人高分子素材センター(以下「本件検査機関」という。)に対し、被告製品一ないし四の示差熱分析を依頼し、本件検査機関は、平成三年七月四日、理学電気株式会社製・標準型示差熱天秤TG-DTA装置を使用し、DTA測定法による示差熱分析を行ない、別紙示差熱分析表のとおりの測定結果を得た。

これによれば、被告製品一ないし四については、副ピークが存在しない。

従つて、被告製品五も被告製品一ないし四と同一の原材料を用い、同一の加工工程を経て生産されたものであるから、被告製品五についても副ピークが存在しないと推定することができる。

それゆえ、被告製品一ないし五は、要件(二)、(三)を充足するものではない。

2(一)  請求原因三2の事実は否認する。

(二)  前記一4のとおり、要件(一)ないし(三)を充足しただけでは本件発明の効果を奏するものと推定することはできない。

(三)  要件(四)は、単なる発明の名称を表わすものではなく、「耐気体透過性の改善」を発明の必須の要件とするものである。

すなわち、要件(一)ないし(三)だけでは、本件発明の目的であるGB性の所期の効果を達成していないものを包含することになり、これは本件特許の無効原因となるので、特許請求の範囲に発明の目的を記載し、その目的を達成しないもの、すなわち、このGB性の改善がされていないものを特許請求の範囲から排除する趣旨で要件(四)を規定したものである。

(四)  そして、GB性の改善のための手段としては、前記のように熱処理技術しかないところ、被告製品一ないし五は、前記1の(八)、(九)のようにこれを実施していないのであるから、GB性が改善された物、すなわち本件発明にかかる物に該当しない。

(五)  被告製品一ないし五のDTA分析結果によると、被告製品一ないし五の測定データには副ピークといえるような曲線は存在しないから、GB性が改善されていると推定することはできない。

従つて、被告製品一ないし五は、要件(二)〈2〉、要件(三)、(四)を充足していない。

(六)  要件(二)の第一式に、被告製品一ないし五の材料であるエバールのビニルアルコール含有量(六八モル%以下)を代入してY1を計算すると一七九・五二℃となるから、被告製品一ないし五は、要件(二)〈1〉、要件(三)を充足しない。

(七)  これまで、EVOHのGB性を改善する技術が多数知られているが、熱処理方法以外に副ピークを発生させる技術はなく、被告は、もちろん熱処理技術を一切使用していない。

従つて、熱処理が施されていない被告製品一ないし五のEVOH層が要件(二)〈2〉、(三)、(四)を充足することはない。

(八)  被告の平成四年七月一日付試験報告書によれば、被告製品一ないし五を一〇五℃で一五分間熱処理すると、熱処理を施さない物(空ボトル)に比べて、酸素を約半分の量しか透過させなかつた。このことは、被告製品一ないし五が「耐気体透過性の改善された包装用材料」ではないことを示している。

また、これらは、被告製品一ないし五の製造方法によつて、被告製品一ないし五のEVOH層が要件(二)〈2〉、要件(三)(四)を充足しないことを示すものである。

3  請求原因三3、4の各事実は否認する。

四  原告の損害について

1(一)  請求原因四1の事実は否認する。

(二)  しかし、被告が別紙一ないし五の各1・4、各図面のとおり各構成を有している被告製品一ないし五を、別紙販売明細表記載のとおり生産し、販売したことはある。

2  請求原因2ないし4の各事実は否認する。

よつて、原告の本訴請求は失当である。

第四  証拠

記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

第一  原告の特許権について

一  請求原因一1ないし3の各事実は、当事者間に争いがない。

二  原告は、要件(四)の「耐気体透過性の改善された」との記載は、要件(一)ないし(三)がもたらす必然的な効果についての認載にすぎないから、要件(一)ないし(三)、要件(四)のうち「包装用材料」のみが本件発明の構成要件である旨主張するので検討する。

1  平成二年法律第三〇号による改正前の特許法七〇条は、「特許発明の技術的範囲は、願書に添附した明細書の特許請求の範囲の記載に基いて定めなければならない。」と規定している。

2  同法七〇条にいう「特許請求の範囲」の記載は、すでに特許を受けている発明の技術的範囲を決定する基準となるべき「特許請求の範囲」を指称し、原則的には、特許権侵害の有無の判断時点における「特許請求の範囲」の記載であるべきである。

それは、一般的には特許査定に係る「特許請求の範囲」の記載であるから、本件においては、昭和五〇年法律第四六号による改正前の特許法三六条五項所定の「特許請求の範囲」と一致し、その「特許請求の範囲」を解釈する技術的尺度は特許出願時における当事者の技術知識であるべきである。

3  同法三六条五項は、「特許請求の範囲には、発明の詳細な説明に記載した発明の構成に欠くことができない事項のみを記載しなければならない。」と規定している。

4  特許請求の範囲には発明の構成に欠くことができない事項「のみ」を記載するのであるから、発明を構成するための必須要件でない事項を記載してはならないし、逆に特許請求の範囲に記載された事項は発明構成の必須要件であるとされることになる。

5  ところで、本件発明は、物の発明であるが、その物が有する新規な作用効果が技術的範囲の認定について決定的な役割を果す場合があり、作用効果に関する事項であつても、出願人においてこれを意図的に特許請求の範囲に記載したときは、それによつて発明の構成を機能的に限定したものというべく、その記載のままで特許を受けた以上、「耐気体透過性の改善された」も構成要件となり、当該特許権者は、後に至り、第三者に対し、自らの権利を主張するに当り、特許請求の範囲に記載されたこのような限定を無視し、この記載をもつて単なる作用効果の記載にすぎず、発明の構成要件に属するものでないと主張することは、特別の事情がない限り、許されないと解するのが相当である。

6  原告は、右特別の事情として、要件(一)ないし(三)を充足した包装用材料はすべてGB性が改善されたものとなると推定できる旨主張する。

7  しかしながら、成立に争いない甲第二号証の一・二によれば、本件補正後公報中には「示差熱分析カーブにおいて特定の温度範囲に主吸熱ピークと副吸熱ピークとを有するエチレンービニルアルコール共重合体から成る包装材料は、むしろ単一の吸熱ピークを示すエチレンービニルアルコール共重合体から成る包装材料に比してむしろ優れた耐気体透過性を示す」と説明されているけれども、要件(一)ないし(三)が充足されれば何故、耐気体透過性が改善されるのかについての説明がなされておらず、また、主ピーク(Y1)、副ピーク(Y2)、面積比(Rs)の臨界点での耐気体透過性がどの程度あるのかについての実施例の記載がないことが認められる。

従つて前記一認定事実と右事実を併せ考えると、この説明は、要件(一)ないし(三)の特徴を備えているEVOHの包装材料であれば、一般的に副ピークのない材料に比してGB性が勝るということを述べてはいるが、常にGB性が勝るとまでは述べていないと解される。

8  前掲甲第二号証の一、二によれば、請求原因一6(二)(1)の事実が認められる。

しかし、このようを僅かな実施例と比較例との対比をもつて、EVOHが要件(一)ないし(三)の構成上の特徴を充せば常にGB性が向上することを推定することはできない。

9  その他本件発明の出願当時において、要件(一)ないし(三)を充足した包装用材料は常にGB性が改善されたものとなるという事実を認めるに足りる証拠はない。

10  前記各認定事実によれば、本件発明の出願当時の技術水準において、要件(一)ないし(三)を充足した包装用材料はすべてGB性が改善されたものとなると推定できるということはできない。

11  以上によれば、本件においては、前記6の原告の主張は採用できない。

12  そして、請求原因一6(三)(1)のような実務上の運用がなされているとしても、そのことによつては未だ右11の判断を左右するに足りないものというべきである。

13  そうすると、本件発明の構成要件は、要件(一)ないし(三)、要件(四)のうち「包装用材料」に限定されるとの原告の主張は失当である。

14  結局、本件発明の構成要件は、要件(一)ないし(四)全部であると解するのが相当である。

三1  特許請求の範囲の文言が一義的で疑問の余地がない程明確でない限り、特許請求の範囲の正しい技術的意味は、常に解釈によつて探究されなければならず、その解釈の基準として、〈1〉特許請求の範囲優先の原則、〈2〉先行技術参酌の原則、〈3〉発明の詳細な説明参酌の原則、〈4〉課題及び作用効果参酌の原則、〈5〉出願経過参酌の原則等があげられる。

2  そこで、これらの解釈基準に従つて、要件(一)ないし(四)の技術的意味を解釈すると、請求原因一4のとおりとなる(前掲甲第二号証の二、証人山田宗機の証言-以下「山田証言」という。-により真正に成立したものと認められる甲第一六号証と同証言及び弁論の全趣旨)。

3  そこで、本件発明は、本件明細書の特許請求の範囲の項において、本件発明の対象たる物の化学的組成構造を「(A)ビニルアルコール含有量が五〇乃至七五モル%で残存ビニルエステル含有量がビニルエステル及びビニルアルコールの合計量基準で四モル%以下のエチレンビニルアルコール共重合体、又は(B)上記エチレンービニルアルコール共重合体と該共重合体当り一五〇重量%までの前記共重合体以外の少くとも一種の熱可塑性重合体とのブレンド物から成る少くとも一個の層を含有し、前記エチレンービニルアルコール共重合体」と特定し、さらに本件発明の対象たる物の物理的構造を間接的にその物理的性質を測定する方法によつて、「前記エチレンービニルアルコール共重合体が実質的に、〈1〉第一式:Y1=1.64X+68.0を満足する主吸熱ピークと、〈2〉第二式:0.67X+66.7〓Y2〓0.40X+40.0を満足する少くとも一個の副吸熱ピークとを有し、かつ〈3〉主吸熱ピーク面積当りの副吸熱ピーク面積の比Rsが少くとも二・五%以上の範囲にあること」と特定し、さらにGB性が出願当時公知の単一の主ピークを有するEVOHのそれよりも上回るという作用効果を構成要件にまで高めて規定したと解するのが相当である。

4  物の特許発明の技術的範囲は、特許請求の範囲に記載された構成要件に該当する構成を有する一切に及ぶのであつて、製法の如何は問題ではなく、物が右構成要件を充足していれば、その物は特許発明の技術的範囲に属するというべきである。

そして、物の発明においては、明細書中に少くとも一製法を開示する必要があるが、前掲甲第二号証の二によれば、本件補正後公報において、要件(一)を充足する成形物を一定の温度で一定時間熱処理することによつて本件発明の対象物が得られるとする製法(実施例)が開示されていることが認められる。

また、開示された製法以外の製法を用いても、右構成要件を充足すれば、技術的範囲に属するし、本件発明の出願後に前記課題を解決する新規な技術を用いて製造したとしても、その物もまた技術的範囲に属するというべきである。

第二  被告の実施行為について

一  請求原因二1の事実のうち、被告が被告製品一ないし五を生産し、販売したことは、当事者間に争いがない。

二  被告代表者本人尋問の結果(以下「被告供述」という。)と弁論の全趣旨によれば、被告が現に被告製品一ないし四を生産・販売しており、かつ将来も引続きこれらを生産・販売する意図を有していることが認められる。

三  請求原因二2の各事実は、当事者間に争いがない。

第三  侵害について

一  侵害の意義について

被告製品一ないし五が要件(一)ないし(四)のすべてを充足すれば、これらが原告主張の侵害物件である被告物件(イ)ないし(ホ)に該当することになり、被告が被告製品一ないし五を生産・販売することによつて、原告の本件特許権を侵害するものということができる。

二  被告製品一ないし五の要件充足性について

1  要件(一)の充足性について

被告製品一ないし五が要件(一)を充足していることは、前記第二の一認定のとおりである。

2  要件(四)の充足性について

(一) 被告製品一ないし五が要件(四)のうち「包装用材料」の要件を充足していることは、前記第二の一認定のとおりである。

(二)、 原告は、被告製品一ないし五が要件(四)のうち「耐気体透過性の改善された」の要件を充足している旨主張するのでこれを検討する。

(1) 本件特許請求の範囲には、GB性の改善の程度につき記載がないから、クレーム自体に改善程度の限定はないということができる。

(2) 前掲甲第二号証の二によれば、本件補正後公報には、実施例1の表1に、一八二℃の温度に単一の主吸熱ピークを有する成形物は一・一四(cc/m2・day・atm-一〇四μ厚みに換算)の酸素透過度を示すのに対し、一一〇℃に副吸熱ピークをも有する成形物は、上記値の半分以下の〇・五五(前同)の酸素透過度を示すと記載されていることが認められる。

(3) 一般に特許審査のプラクティスにおいては、明細書の実施例には最良の結果を示すものが記載される慣行があるといわれている。

(4) 右(1)ないし(3)の事情に鑑みると、要件(四)(GB性の改善)に関しては、従来例の約二倍でなければならないと解する必要はなく、従来例のものに比して改善があれば要件を充足していると解するのが相当である。

(5) しかし、本件においては、被告製品一ないし五が右(4)判示の要件を充足していることを認めるに足りる証拠はない。

(6) そうすると、被告製品一ないし五は、「耐気体透過性の改善された」の要件を充足していないというべきである。

3  要件(二)、(三)の充足性について

(一) 前掲甲第二号証の二、第一六号証、山田証言及び弁論の全趣旨によれば、請求原因一5(一)ないし(三)の各事実が認められる。

(二) 本件発明のように、発明の対象たる物の物理的構造をその物理的性質を測定することによつて特定することとされている場合には、被告製品一ないし五が構成要件(要件(二)、(三))を充足しているか否かは、それらが客観的に特定の物理的性質を有しているか否かで一義的に判定されるわけであつて、Y1、Y2、Rsの定義は、物理学上客観的に確定している。

(三)(1) ところで、成立に争いない甲第二一号証の一ないし三、乙第六号証、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第一七号証と弁論の全趣旨によれば、本件発明の優先権主張日当時の技術水準において、プラスチックの転移温度測定方法として、熱分析の原理を用いる〈1〉示差熱分析(DTA)、〈2〉入力補償示差走査熱量測定(入力補償DSC)、〈3〉熱流束示差走査熱量測定(熱流束DSC)が知られていたことが認められる。

(2) 本件特許請求の範囲には「示差熱分析における……温度」と記載されていることは、前記第一の一認定のとおりである。

(3) そして、前掲甲第二号証の二によれば、本件補正後公報の「発明の詳細な説明」には、「示差熱分析(DTA)」、「本発明を実施例によつて具体的に説明する。本発明における示差熱分析は、理学電気株式会社(日本)製微量試料型示差熱分析装置(ミクロDTA標準型NO.八〇二五)を使用し」、「示差熱分析」、「示差熱分析曲線」等の記載があることが認められる。

(4) 右(1)ないし(3)の各認定事実によれば、本件発明においては、プラスチックの転移温度測定方法としてDTAを予定し、具体的にはミクロDTA装置の使用を開示して、ミクロDTA測定方法によることを予定していることが明らかである。

(5) 結局、本件明細書は、プラスチックの転移温度測定方法を「示差熱分析」(DTA)に限定しているものというべく、それ以外の測定方法を使用して要件(二)、(三)の充足性を判定することは許されないといわなければならない(もつとも、DTA用の装置の種類については限定はないから、ミクロDTA装置に限定されるいわれはない。-理学電気株式会社製標準型示差熱天秤TG-DTAでも差支えない。)。

(6) 原告は、この点に関し、ミクロDTA装置が昭和五二年に製造・販売が廃止され、現在これを入手することが不能である旨主張するけれども、右(5)判示のとおり測定装置の限定はなく、かつ成立に争いない乙第八号証、第一八号証によれば、平成三年七月四日当時(現在までその存在が推定される。)、本件検査機関には右(5)判示のTG-DTA装置が存在しており、また他の種類のDTA装置入手の可能性を否定しきれないから、原告の右主張は採用することができない。

(四) ところで、前記(二)のように、本件発明は、物の発明であつて、物の物理的構造をそれが現に有する物理的性質を測定することによつてその物と侵害物件との同一性を比較すべきであり、かつその測定方法が右(三)(5)のようにDTA測定方法に限定されている場合には、侵害物件自体をDTA測定方法で測定しなければならないととはいうまでもない。

(五)(1) ところが、原告は、被告製品一ないし五の現物(内容物充填前の空ボトル)についてDTA測定方法を用いて測定した測定結果を証拠として提出していない。

(2) 原告は、その理由として、被告製品一ないし五が原告の管理支配の及ばない被告の勢力範囲内にあるため、それ自体を入手することが不可能であつたから、その代替物件として、被告がユーザーに販売し、ユーザーがこれに食品を充填して完成した商品を市場から無差別に購入し、その内容物を抜き取つたあとの空ボトル(検甲第一ないし第五号証)を試料として示差熱分析を行わざるを得なかつたものであり、かつ被告製品一ないし五がユーザーの下において受けた僅かの熱処理によつてはその物理的性質に何ら影響を及ぼさないから、右空ボトルを試料として得られた測定結果は、被告製品一ないし五自体の測定結果と同視でき、十分な証明力がある旨主張する。

(3) しかし、前掲甲第一六号証、成立に争いない甲第一五号証の一ないし四、山田証言により真正に成立したものと認められる甲第七号証、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第二七、第二八号証と同証言によれば、原告が前記空ボトルについて得た測定結果のうち、昭和六三年三月二日分(甲第一五号証の一)、平成元年六月二六日分(甲第七号証)、平成三年九月一八日分(甲第一五号証の二)、同月二四日分(同号証の三)、平成五年一月二六日分(甲第二七号証)、同年四月二日分(甲第二八号証)は、いずれも(入力補償)DSC測定方法を使用して得られた資料であり、かつ後記(5)のような問題があるうえ、後記(六)の反証と対比して、結局、その証明力が極めて低いため採用することができない。

(4) また、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第一八ないし第二〇号証によれば、原告が前記空ボトルについて得た測定結果のうち、平成四年七月七日分(甲第一九号証)、同年一〇月二一日分(甲第一八号証、第二〇号証)は、いずれもDTA測定方法を使用して得られた資料であるけれども、右試料は、ユーザーが充填した内容物を抜きとつた後の空ボトルを試料としたもので被告製品の現物自体を試料としていないので、後記(5)のような問題があるうえ、後記(六)の反証と対比して、結局、その証明力が極めて低いため採用することができない。

(5) 先ず試料が原則として侵害物件自体でなければならないことは、前記(四)判示のとおりである。

しかも、被告製品の現物自体を原告が入手することが法律上・事実上不可能であるとまではいえない。

また、被告製品一ないし五が被告の手許を離れて流通過程に入り、原告の手許に入るまでにその物理的性質に影響を及ぼすような原因が全く発生する余地がないとは経験則に照らしいいきれないとの疑念が払拭できない。

(六) 他方、前掲乙第八号証、第一八号証によれば、被告主張第三の三1(二)の事実が認められる。

右認定事実によれば、被告は、被告製品一ないし四自体についてDTA測定方法を用いて、これらに副吸熱ピークが存在しないこと、従つて要件(二)、(三)を充足しないこと(被告製品五についてもそのように推定できること)を立証(反証)しており、原告は、右測定結果を弾劾するに足りる証拠を提出していない。

三  まとめ

以上の次第であつて、結局、被告製品一ないし五が被告物件(イ)ないし(ホ)に該当するとの原告の主張は証明不十分に帰し、被告製品一ないし五は、本件発明の技術的範囲に属しないというべきである。

従つて、被告は、被告物件(イ)ないし(ホ)を生産・販売したことはなく、それゆえ過去に本件特許権を侵害したとはいえないから、右侵害を前提とする原告の本訴不法行為に基づく損害賠償請求は、その前提を欠くので、その余の点について判断するまでもなく理由がない。

また、被告は、現に本件特許権を侵害しておらず、かつ将来もこれを侵害するおそれはないから、原告の本訴差止請求も理由がない。

第四  結論

よつて、原告の本訴請求はいずれも理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 石井浩 裁判長裁判官辰巳和男、裁判官山田整は、転補につき署名捺印することができない。 裁判官 石井浩)

別紙一

被告物件(イ)目録

添付図面(イ)に示すとおり

1 ビニルアルコール含有量が約七〇モル%で残存ビニルエステル含有量がビニルエステル及びビニルアルコールの合計量で〇・四モル%以下のエチレンビニルアルコール共重合体からなる中間層を有し、

2 前記エチレンビニルアルコール共重合体は、

(一) 示差熱分析における主吸熱ピーク温度が約一八〇~一八五℃の主吸熱ピークと

(二) 示差熱分析における副吸熱ピーク温度が約八〇~一一〇℃の副吸熱ピークとを有し、

3 主吸熱ピーク面積当りの副吸熱ピーク面積の比が少なくとも七・〇%を超えており、

4 内層及び外層が各接着性ポリプロピレンを含むポリプロピレンからなる多層構造の耐気体透過性を有する内容積約三〇〇ccの食品収納用積層ブロー成形ボトル

以上

被告物件(イ)

〈省略〉

別紙二

被告物件(ロ)目録

添付図面(ロ)に示すとおり

1 ビニルアルコール含有量が約七〇モル%で残存ビニルエステル含有量がビニルエステル及びビニルアルコールの合計量で〇・四モル%以下のエチレンビニルアルコール共重合体からなる中間層を有し、

2 前記エチレンビニルアルコール共重合体は、

(一) 示差熱分析における主吸熱ピーク温度が約一八〇~一八五℃の主吸熱ピークと

(二) 示差熱分析における副吸熱ピーク温度が約八〇~一一〇℃の副吸熱ピークとを有し、

3 主吸熱ピーク面積当りの副吸熱ピーク面積の比が少なくとも七・〇%を超えており、

4 内層及び外層が各接着性ポリプロピレンを含むポリプロピレンからなる多層構造の耐気体透過性を有する内容積約五〇〇ccの食品収納用積層ブロー成形ボトル

以上

被告物件(ロ)

〈省略〉

別紙三

被告物件(ハ)目録

添付図面(ハ)に示すとおり

1 ビニルアルコール含有量が約七〇モル%で残存ビニルエステル含有量がビニルエステル及びビニルアルコールの合計量で〇・四モル%以下のエチレンビニルアルコール共重合体からなる中間層を有し、

2 前記エチレンビニルアルコール共重合体は、

(一) 示差熱分析における主吸熱ピーク温度が約一八〇~一八五℃の主吸熱ピークと

(二) 示差熱分析における副吸熱ピーク温度が約八〇~一一〇℃の副吸熱ピークとを有し、

3 主吸熱ピーク面積当りの副吸熱ピーク面積の比が少なくとも七・〇%を超えており、

4 内層及び外層が各接着性ポリプロピレンを含むポリプロピレンからなる多層構造の耐気体透過性を有する内容積約三〇〇ccの食品収納用積層ブロー成形ボトル

以上

被告物件(ハ)

〈省略〉

別紙四

被告物件(ニ)目録

添付図面(ニ)に示すとおり

1 ビニルアルコール含有量が約七〇モル%で残存ビニルエステル含有量がビニルエステル及びビニルアルコールの合計量で〇・四モル%以下のエチレンビニルアルコール共重合体からなる中間層を有し、

2 前記エチレンビニルアルコール共重合体は、

(一) 示差熱分析における主吸熱ピーク温度が約一八〇~一八五℃の主吸熱ピークと

(二) 示差熱分析における副吸熱ピーク温度が約八〇~一一〇℃の副吸熱ピークとを有し、

3 主吸熱ピーク面積当りの副吸熱ピーク面積の比が少なくとも七・〇%を超えており、

4 内層及び外層が各接着性ポリプロピレンを含むポリプロピレンからなる多層構造の耐気体透過性を有する内容積約五〇〇ccの食品収納用積層ブロー成形ボトル

以上

被告物件(ニ)

〈省略〉

別紙五

被告物件(ホ)目録

添付図面(ホ)に示すとおり

1 ビニルアルコール含有量が約七〇モル%で残存ビニルエステル含有量がビニルエステル及びビニルアルコールの合計量で〇・四モル%以下のエチレンビニルアルコール共重合体からなる中間層を有し、

2 前記エチレンビニルアルコール共重合体は、

(一) 示差熱分析における主吸熱ピーク温度が約一八〇~一八五℃の主吸熱ピークと

(二) 示差熱分析にわける副吸熱ピーク温度が約八〇~一一〇℃の副吸熱ピークとを有し、

3 主吸熱ピーク面積当りの副吸熱ピーク面積の比が少なくとも七・〇%を超えており、

4 内層及び外層が各接着性ポリプロピレンを含むポリプロピレンからなる多層構造の耐気体透過性を有する内容積約五〇〇ccの食品収納用積層ブロー成形ボトル

以上

被告物件(ホ)

〈省略〉

販売明細書

〈省略〉

以上

示差熱分析表

試料量mg 主吸熱ピーク温度 ℃

被告製品一 ファーストラン 5.2 182.8

セカンドラン 5.2 183.6

被告製品二 ファーストラン 5.1 182.3

セカンドラン 5.1 183.5

被告製品三 ファーストラン 5.2 182.9

セカンドラン 5.2 183.5

被告製品四 ファーストラン 5.2 182.4

セカンドラン 5.2 183.7

温度領域67℃~113℃間にピーク温度を有する副吸熱ピークは検出されない。

以上

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